車の処分と相続放棄の否認(単純承認)
「車を処分して、相続放棄が無効になったらどうしよう?」というご相談を受けます。
今回は車を処分することと、相続放棄の否認(単純承認)について紹介していきたいと思います。
車を処分したら相続放棄が否認されてしまうの?
相続には、故人の財産や債務のすべてを引き継がないようにする手続きである相続放棄と、遺産を承継する単純承認があります。
相続放棄を行なう場合、勝手に車を処分した場合、単純承認とみなされてしまうことがあります。
これは、民法921条1号で、次のように定められています。
相続人が相続財産の全部又は一部を処分したときは、その相続人は、単純承認をしたものとみなす
つまり「単純承認をした」とみなされると、相続をしたものとして、相続放棄が無効になることがあるのです。
ただし、勝手に処分をしてはいけないのは故人の【財産】です。
財産価値がないと判断されたものに関しては、法律上の処分行為ではなく、残置物を処分したことになります。
例えば故人の古着など、換金価値の無い明らかなゴミは処分をしても、単純承認とはみなされません。
故人の車を処分した時に単純承認とみなされる典型例
「亡くなった人の車を処分する」に当たって単純承認とされる典型例としては、次のようなケースが考えられます。
□故人の車を使い続ける
□故人の車を売却して、その代金を受け取る
上記のような「利益を得る行為」が問題となります。
相続放棄後車を処分したときに単純承認とされないためには?
単純承認とされないためには、以下が重要です。
□車をスクラップとして処分し、お金を受け取らない
□処分費用が発生した場合は、自分で立て替えて、領収書等の記録を取る
□故人の車を、自分のために利用しない
金銭的利益を得ず、ゴミ処分の範囲にとどめるなら、相続放棄の効力は否定されにくいです。
車を処分して、相続放棄が無効となるまでの流れ
車を処分して、相続放棄が無効となるまでの流れは以下のようなものがございます。
1.相続財産清算人が立てられる
相続放棄が無効になる場合であっても、いきなり債権者が現れて、「何で車を処分したのだ。相続放棄を無効にしてやる!」とはなりません。
債権者は弁護士に依頼して、裁判所の手続きを経て、相続財産清算人を立て、その相続財産清算人が、故人の財産の清算業務に着手します。
なお、その手数料として100万円程度の費用がかかります。
債権者からすると、故人にどれほどの財産・借金があるのかが事前に分からない状況で、安易に相続財産清算人を立ててしまうと、却って損してしまう可能性もあります。
したがって、容易に相続財産清算人を立てることが出来ない仕組みになっています。
2.相続財産清算人が故人に車があることを知る
相続財産清算人が立てられると、故人の財産を調査する段階に進みます。
車にローンが残っていれば話は別ですが、ローンが完済された車が処分されている場合、故人が車を所有していたことを突き止めるのはとても困難です。(弁護士も万能ではありません。)もし、相続財産清算人に何か聞かれても、ゴミを処分しただけですので、わざわざ「車を処分しました」という必要はありませんし、その義務もありません。
そのため、「相続放棄しており、お話することは何もございません。」と返答されるのが無難かもしれません。
3.当社が作成した査定書を弁護士が否定する
当社は公式な査定士の資格を所持しており、いい加減な査定をするようなことは致しません。しかし、相続財産清算人が次のような内容の主張をすることも考えられます。
□その査定書には信用性がない
□車に市場価値があったのに、勝手に無料で処分したのだから財産の散逸だ
□その分、債権者に配当できなくなった
上記を清算人が主張することは可能ですし、実際そうする者がいることも確かです。
相続財産清算人も依頼者から着手金を受け取って業務を行ないます。
したがって、依頼人を納得させるためにも、結果はともかくとして、とんでもない主張を展開し、ダメ元で当社の査定書の信用性を否定してくる可能性もゼロではありません。
「負けたらそれまで」という開き直った発想ですね。
勿論、当社も自信・責任を持って査定書を作成しています。
もし、そのように主張してくる清算人がいたら、しっかり反論させていただきますのでご安心ください。
4.不服申立が認められ、査定書の金額が否定される
上記のような清算人に当たってしまったとしても、裁判所は清算人の主張を鵜呑みにする訳ではありません。
根拠となる証拠の提示義務は相続財産清算人側にあります。
相続財産清算人側が、余程しっかりした根拠を提示しないと、裁判で査定書の金額が否定されることはありません。
100歩譲って、その車に市場価値があったことが裁判で認められたとします。
当社はゼロ円と査定したが、裁判所の判決では10万円価値だったとします。
しかし、これは「財産散逸による損害賠償請求」です。
つまり「故人の財産を10万円棄損したのだから、10万円を支払え」というものです。
これは相続財産の管理責任の問題であり、「相続放棄が無効になる」話とは別の次元です。
□依頼者が金銭を受け取っていない
□利益を得る意図もない
□あくまで不要品処分の延長として行った
これらの証拠が書面で残されていれば、相続放棄が否定される可能性は低いと考えられます。
車両の処分は、ビッグエイトの査定書に基づき、無価値と判断して行なったものです。
故人の財産を処分して、お金を得ようとした訳ではありません。
現に処分に当たって一切のお金を受け取っていません。
このように、もし、裁判所が車に市場価値が「あった」と認めたとしても、そこから更に、相続放棄の【否定】へ持って行くには相当高いハードルが存在します。
まとめ
今回は、車の処分と相続放棄の否認(単純承認)についてご紹介しました。
車の処分によって相続放棄の否認が起きるケースとしては、その車がクラシックカーなど相当の財産価値があり、それを売却するなどして処分し、対価を得たときなどが考えられます。
処分行為によって対価を得ていない場合、車に市場価値があったとしても、依頼者の方がお金を受け取っていなければ相続放棄は否認されにくいです。
もちろん、相続財産清算人が後から問題視する可能性はありますが、それは「財産管理上の問題」であり、相続放棄の否定までは基本的に及ばないと考えられます。
とはいえ、担当している清算人によっては、「充分に市場価値はあった」と主張してくることも考えられます。
そのため、実務的には「市場価値無しの証明」や「無償処分の記録」を残すのが安心といえます。
当社では、相続放棄後の車の処分に関して、自信と責任を持って査定書を作成しております。
ご不安な方やお困りの方は、まずは当社までご相談ください。